どうか、子犬のうちから甘やかさずにしっかりしつけなくちゃ!などと頑張り過ぎないでください。背筋が伸びるような緊張感あるトレーニングなんて必要ありません。
1歳までの子犬育ては「コミュニケーションの取り方をお互いが学ぶ」時期です。そのポイントと、オスワリ、フセ、マテなど、1歳までに覚えさせたい基礎的なサインの教え方を紹介します。
この記事を書いた人
カジ ノブエ
ドッグトレーニング・インストラクター/スウェーデン式ドッグマッサージ・セラピスト 犬の行動心理に基づく英国式ドッグトレーニングを日本に取り入れた第一人者、松本和幸氏に師事。英国ペットドッグトレーナーズ協会公認、リン・バーバー氏のディプロマ取得。
出張ドッグトレーニング「おりこうワンちゃん」 http://www.orikou-wanchan.com
子犬とは上下関係ではなく、信頼関係を築く
犬は祖先のオオカミのように群れをつくる社会的な動物です。そして、仲間との関係性やルールを重んじます。
一般の家庭に置き換えてみると、飼い主家族を一つの群れと認識しているようなイメージでしょうか。
そして、ルール=人と快適に暮らすための約束事(例えば、トイレでの排泄や吠えないこと、など)ととらえて学びます。
犬は群れの運営がしっかりしていると安心して過ごすことができます。家族皆が一つの群れということを念頭に愛犬との信頼関係を築いていくことが、人と犬とが快適に暮らす秘訣といえるでしょう。
それは決して、人が上で犬が下、という上下の関係性だけではありません。
子犬の頃にぜひ実践したいのは、たくさんほめて自信をつけさせてあげること。そうすることで、人という家族に対する信頼はより深くなっていきます。これがしつけの基本です。
「君のことは私たち家族(人)が守ってあげるから安心して群のルールを守ってね」という気持ちで接すれば、愛犬は必ずその気持ちに応えてくれるはずです。
子犬時代のしつけは「おいしく、楽しく」
子犬のうちから厳しいしつけトレーニングは必要はありません。それよりも一歳までの子犬のしつけに大切なことは、「人とコミュニケーションをとることは楽しい」という印象を持ってもらうこと。
ここでいうコミュニケーションとは、人が発信するサイン(合図)がどんなことを示しているのかを学ぶことです。
幼少期に体験する人とのコミュニケーションが楽しく喜びに満ちたものであるほど、その後に教えるしつけやトレーニングがとてもスムーズになります。
子犬が「オスワリ」や「マテ」など人が示すサインが意味することを理解できた時は、おおいに褒めたたえてあげましょう。
そして、何かを教える時、しつける時、伝えたいことを犬が理解するきっかけづくりに、フードやおやつなどトリーツ(ごほうび)の力を大いに活用しましょう。
おいしいものの助けを借りることで、学びの時間は子犬にとってさらに楽しい時間となり、より意欲的に学習する(しつけを学ぶ)ことができます。
フードやおやつにあまり関心を示さない場合は、おもちゃや飼い主さんのやさしい声など、その子にとって楽しくうれしいことをごほうびにして意欲を高める工夫をしつけに取り入れましょう。。
また、しつけとして、以下のようなサインの練習する1回あたりの時間は、ほんの数分間で十分です。
長時間しつけや、トレーニングを行っても、集中力が切れてしまい学習そのものが嫌になってしまいます。何度も繰り返し練習することはもちろん大切ですが、短時間で行い、その後はたくさん遊んであげましょう。
しつけの第一歩、「アイコンタクト」
言語の異なる生き物と意思の疎通を図るには、お互いにその存在を意識しなければはじまりません。
人が犬に対して何かを伝えるために、まずしなければならないことは、子犬のうちに「人が発信するサインを意識する習慣」をつけること。
愛犬の名前を呼んだら、飼い主さんに意識を集中することがスムーズにできれば、そのほかのしつけの為のサインも伝えやすくなります。
アイコンタクトの教え方
方法はとてもシンプルです。
- フードやおやつなどのトリーツを子犬の鼻先に持っていき、そのままその手を自分の眉間のあたりに近づけていきます。トリーツ越しに愛犬と目線を合わせるようなイメージです。
- 犬の名前を呼び、一瞬でも目が合ったように感じたら、「イイコ!」とほめてトリーツをあげます。
この「アイコンタクト」が定着してくると、愛犬は名前を呼ばれると飼い主の顔を見上げるようになります。
あまり見つめ過ぎると犬は居心地が悪く本能的に視線をそらそうとしてしまうため、信頼関係が十分に醸成されていないうちは、目を見るのはほんの数秒にするか、少し目線を外して額の上あたりを見るようにしましょう。
信頼関係が深まるほどに、愛犬の方からすすんでアイコンタクトをとってくれるようになります。
鉄壁の「オスワリ」と「フセ」
日常生活の中で一番活躍するであろう基本姿勢の「オスワリ」と「フセ」。
サッと出来ると、いかにもちゃんとしつけされたお利口なワンちゃんという様相でとても格好いいものです。
興奮を抑えたり、飛びつき事故などの防止にも役立つため、いつでも、どんな時でもこの二つの姿勢がスムーズにできるよう、早い時期から出来るように練習したいものです。
教えるには、トリーツを使って誘導し、それぞれの「型」を身体で覚えてもらいます。
オスワリの教え方
- トリーツを子犬の鼻先に持っていき、「オスワリ」と声をかけながら、トリーツを頭上にゆっくりと移動します。
- 子犬がトリーツにつられて頭をあげ、お尻が地面についたら、そのタイミングで「イイコ!」とほめてトリーツをあげましょう。
フセの教え方
同様に、子犬をトリーツで誘導して型を覚えさせます。
- 子犬を座らせた状態でトリーツを鼻先に持っていき、「フセ」と声をかけながら、トリーツを持った手をゆっくりとまっすぐに地面に向かっておろします。
- そのままアルファベットの「L」の形をイメージして、地面におろした手を手前に誘導すると、子犬はトリーツにつられて姿勢を低くしていきます。
- 足とおなかが地面についたら、そのタイミングで「イイコ!」とほめてトリーツをあげましょう。
手前の誘導がうまくいかない場合は、地面におろした手を子犬の前足の間、お腹の奥へとつっこむように誘導してみましょう。
子犬のお尻があがってしまって伏せることが苦手な場合は、人が片足を投げ出すようにしてトンネルをつくり、その中をくぐらせたりしながら低い姿勢に子犬を慣らしてあげるよいでしょう。
「おいで」で駆け寄ってくる愛らしさは格別!
「おいで」も「マテ」も、遊びや食事など普段の生活の中で子犬が自然と学べるものでもあるため、毎日の生活の中で自然と習慣化していくことが理想です。
そして、定着を図るためにトリーツを使った練習をして、より理解を深めていくしつけ方をするとよいでしょう。
「名前を呼んでも来ない」という悩みを抱える飼い主さんは少なくありません。呼ばれたら必ず来ることをしつける(習慣化する)には、「呼ばれていくと楽しいことがある」という印象から覚えてもらいましょう。
また、「おいで」を「マテ」とセットでしつけることは、あまりおすすめしません。なぜなら、「おいで」は人の元へ近づいていく「動」の動作。
「マテ」はその場に留まる「静」の動作。相反することを同時に教えることは、子犬を混乱させやすいためです。
一見セットのほうが覚えやすく感じられるかもしれませんが、別々に練習して理解させ、定着させるほうがその後の応用がスムーズでしょう。
<おいでの教え方>
特別に練習の時間を設けなくても日常生活の中で自然と習慣化していくとよいでしょう。
- 名前を呼び、愛犬がこちらを向いたら、楽しそうに「おいで」と声を掛けます。
- 愛犬が手元まで来たら、ほめてトリーツをあげましょう。この時、犬が人の足やひざに触れるくらいまで近くにトリーツで誘導して呼び込むことがポイントです。愛犬が近くまでやって来ると、ついつい迎えにいってつかまえようとしてしまいますが、怖がって逃げてしまうことになり、逆効果です。
「呼ばれて行くといつも楽しいことがある」という記憶が、良いイメージとして定着していくと、愛犬はいつでも嬉しそうに駆け寄ってくるはずです。
その期待を裏切らないように、叱る時や犬にとってつまらないこと(留守番、お手入れなど)のために「おいで」を使うことは避けたいものです。
飼い主の微妙な声のトーンを犬は敏感に察知します。イライラしていたり、機嫌の悪い声で「おいで」と呼んだりしても、愛犬は駆け寄ってくることはないでしょう。
<マテの教え方>
「マテ」はその場にとどまることを教えるサインです。子犬に我慢を強いることになるため、最初はほんの数秒からスタートします。
- 子犬を座らせて正面に立ち、犬の目線を遮るように手のひらをかざして「マテ」と声をかけます。
- 一歩後ろに下がり、すぐに元に戻ります。動かずに待っていられたら、「よし」と解除のかけ声をかけ、ほめてトリーツをあげましょう。この動きは、人が犬から遠ざかることに対して動かずにとどまって居ることを学んでもらうものです。
- 子犬が動いてしまったら、すかさず元の「マテ」の号令をかけた場所に犬を戻します。あまりに動き回ってしまう場合は、リードをつけて行動範囲を制限した状態で練習するとよいでしょう。
- 短い時間が待てるようになったら、しだいに少しずつ距離を長くしていきます。待てないときは少し短い時間戻して練習し、極力失敗させないようにしましょう。
ポイントは、「マテ」と「よし」の声のトーンにメリハリをつけること。「マテ」は厳しく、「よし」はうれしそうに楽しく、伝えてあげましょう。
大切な時期だからこそ、楽しく
子犬の頃からしつけは大切です。でもだからといってりきみ過ぎてしまっては、犬も人と暮らすことを息苦しく感じてしまうかもしれません。
ぜひ、失敗ではなく上手にできた、という成功体験を重ね、たくさんほめて、愛犬に自信をつけてあげてください。
この子犬の頃の一年間は、人から学ぶことそのものを好きになってもらうことが一番のしつけのコツなのではないでしょうか。
この先何年もの間、一緒に暮らしていく、その毎日を笑顔で過ごすためにも、その子の個性を受け入れ、 お互いに信頼し合える絆を深めていきましょう!