愛犬の困った行動、これさえ無ければ…などと思うことは一つや二つあるものです。でも、どんな行動にも理由があります。知らないうちにストレスを与えていたり、間違った対処法をしてより行動を強化してしまったりしている場合もあります。
犬の行動を理解し、それぞれに合ったしつけ対策を取って、お互いが気持ちよく生活できるようにしていきましょう!
ここでは「飛びつく」という困りごとのしつけ対策を行動別に紹介します。
この記事を書いた人
カジ ノブエ
ドッグトレーニング・インストラクター/スウェーデン式ドッグマッサージ・セラピスト 犬の行動心理に基づく英国式ドッグトレーニングを日本に取り入れた第一人者、松本和幸氏に師事。英国ペットドッグトレーナーズ協会公認、リン・バーバー氏のディプロマ取得。
出張ドッグトレーニング「おりこうワンちゃん」 http://www.orikou-wanchan.com
飛びつく前に、先手必勝!
犬が飛びつく行動をする、どんな場面が考えられるでしょうか?前足をかける、という行為は上下関係の優位性を示す時に見られるものですが、ペットと暮らす日常生活の中にある「飛びつき」は、どうやらそうしたものだけではなく、甘えだったり、遊びだったり、色々な意味合いがありそうです。
犬が飛びつくことで、大好きな飼い主さんと目線を同じにしたい、コミュニケーションを活発にしたい、という気持ちの表れともとれる場合もあります。
では、一体どうすればいいのか?まずは、「飛びつく癖」をつけさせない。飛びつくという経験をさせないことが一番です。飛びつきそうなシチュエーションを想定して、「オスワリ」や「マテ」の練習を徹底し、飛びつきそうになったらすかさず号令!です。
大抵の飛びつきは、この二つの合図をしっかりマスターしていれば回避できるでしょう。そして、この飛びつきは許容範囲、こういう時はダメ、などと状況に応じて飛びつき行動のルールを決めておき、家族皆でそのルールを徹底する、ということも大切です。
ごはんがほしい!おやつがほしい!で飛びつく
ごはんやおやつ、食いしん坊のワンちゃんにとって、ごはんの準備をしている時間はとても待ちどおしく、テンションが高まる時間。
うれしすぎてピョンピョンとキッチンに飛びあがって危うく、食材や食器を落としそうになった…などということもあるのではないでしょうか。
この場合の飛びつき癖を改善するには、「ピョンピョンと飛び回っているうちはごはんがもらえない」ということを愛犬が学ぶことが一番です。
ごはんの準備をするタイミングでケージに入れてしまう、という方法も有効でしょう。そのうちに、準備を始めようとすると、サッと自らケージの中に入っていくようになります。
おやつを欲しがって飛びつく時は、「オスワリ」や「フセ」の合図を徹底しましょう。飛びついているうちにはもらえないことが分かると、自らが進んで座ったりフセをしたりするようになります。
家族の帰宅、来客を大歓迎!で飛びつく
大好きな家族が帰ってきた!お客さん大歓迎!!フレンドリーな犬の歓迎は、愛犬家にとってはこの上なくうれしいものですが、犬の苦手な人や年配者、小さな子どもなどへの飛びつきは、思わぬ事故につながることもあります。
歓迎のマナーをしっかりと教えて、そのようなリスクは避けたいものです。
帰宅や来客は、犬の日常にとってとてもエキサイティングなイベントのひとつであり、どうしても高まる気持ちを抑えることができず飛びついてしまう、ということはよくあります。
大切なことは、まずは「落ち着かせる」こと。帰宅や来客の際には愛犬がお行儀よく出迎える習慣をつけましょう。後からたっぷりと、遊んだり、あいさつする時間をとってあげればよいのです。
ワンフット・トレーニング
方法はとてもシンプルです。
- 帰宅してすぐは、愛犬と目を合わせない、声もかけない、触らない。犬と少し距離を置くようにします。
- そして、着替えを済ませたり、荷物を置いたり、手を洗ったり、帰宅後の身支度を終えてから、愛犬のもとにいって心ゆくまで可愛がってあげましょう。
よくあるNGパターンは、帰宅後まっさきにケージに駆け寄り、「ただいま~●●ちゃん!寂しかった?お留守番していてイイコだったね!!」と声をかけ、ケージを開けて興奮度の高まっている犬の好き放題にさせる…というもの。この行為は、必要以上に愛犬の興奮度を助長してしまうのです。
寂しかったのだろうから、仕方がない。という後ろめたさから、どうしてもすぐに愛犬の相手をしてしまいがちですが、そこをグッと我慢して、ワンフット・トレーニングを徹底することをおすすめします。
このトレーニングは、犬の自立心を育み、落ち着いた穏やかな態度を習慣化するもの。練習を繰り返すことで、犬は帰宅してすぐ騒いでも相手にしてもらえないことを学びます。
これによって、愛犬のテンションは必要以上に高まることなく、落ち着いたタイミングで飼い主さんと接することができるようになります。来客時も同様ですが、犬が落ち着いていれば「オスワリ」や「マテ」などの合図も聞き入れやすくなっているでしょう。
大歓迎してもらえない、となると少し寂しい気もしますが、このトレーニングは必ずしも一生涯続ける必要はありません。
子犬の頃のほんのひと時や、大人になってからのトレーニングでも3ヵ月~6ケ月程度のこと。少しの間、この練習を行うだけで、ずっと「飛びつき癖」が治らず来客時に気まずい思いをする、ということと比較してみれば、マナーの行き届いたフレンドリーな愛犬を自慢できるほうがきっと良いはずです。
走っている人や自転車にピョン!の飛びつき
ボーダーコリーやシェットランド・シープドッグ、コーギーなど、羊や牛を追いかけて群をコントロールする仕事をしていた犬種などは、動いているものに対して本能的に反応し、飛びついてしまうこともあります。
突発的に起こったり、飼い主の制御が効かなかったりして、思わぬ大事故につながることもあり大変危険です。こうしたケースの飛びつき癖は、飼い主が愛犬の犬種の特性や個性を理解し、しっかりとトレーニングをして事故が起こらないようにしたいものです。
散歩時でも飼い主への犬の集中力を高める習慣をつけて、いつでも「オスワリ」「フセ」「まて」などの合図を聞き入れることができるように、練習を徹底しましょう。室内で完璧にできていても、外という刺激のたくさんある環境の中で犬の集中力が散漫になっては意味がありません。家の中と同様に合図に対して犬が従うことができるようにする必要があります。
家族で協力し、一人が自転車を走らせる役をして、もう一人が犬を連れて立ち止まって名前を呼び、意識をこちらに向けさせて「おすわり」させる、などシチュエーションを想定した練習も有効です。飛びつかずに見過ごすことができたら、十分にほめて、ごほうびをあげましょう。
子どもにピョンピョン!の飛びつき
小さな子どもは、犬にとっては仲間や同等の遊び相手のような存在です。遊ぶことに夢中になりすぎてヒートアップすると、犬は子どもに対して犬同士のじゃれ合いのような感覚で、飛びついたり咬みついたりしてしまいます。
犬が小さな子どもに対しても、大人にするような敬意ある態度を示すようになるには、大人がそのサポートをする必要があります。例えば、子どもを愛犬の食事係に任命し、大人と一緒にごはんをあげてみましょう。
子どもに「オスワリ」「マテ」「よし」などの合図を出させて、主従のコミュニケーションをとります。食事を与えてくれる人に対して犬は特別な信頼を寄せるため、普段からこうした練習が習慣化されていると、飛びつきそうになった時でも「オスワリ」の合図を出すと、犬も子どもの合図を受け入れることができるようになっていきます。
一緒に遊ぶ時間も、犬を必要以上に興奮させないために、ひんぱんに休憩をはさむ、遊ぶ時間を決めるなどしながら、必ず大人が見守ります。追いかけっこはせず、オモチャを使って遊ぶことを教えたり、ヒートアップしそうになったら、大人が遊びを中断させたり、どちらかを避難させたりする判断をしなければなりません。
小さな子ども特有の、予想できない動きや甲高い声などは、犬の遊びたい衝動をとても刺激するものです。愛犬と遊ぶ時は、必要以上に騒がないことを子どもと約束するなど、家庭の中でのルールをつくって、犬も人も楽しく遊べるようにするのが大人の役目です。
抱っこして!助けてSOSの飛びつき
愛犬にとって、群=家族である人は、自分の身を守ってもらえる信頼のおける存在です。何か恐怖や自分だけでは対処できないような状況に置かれた時、真っ先に飼い主の元に駆け寄って、時には飛びついてSOSを求めることもあるでしょう。
「抱っこしてほしい」「守ってほしい」そんな気持ちから、前足をかけて訴えようとしてくるような時は、その原因となるものを発見し、不安な気持ちを解決してあげることも飼い主の大切な役目です。
もちろん、SOSの飛びつきは許容範囲とすることも問題はありません。
ただ、雷が怖いケースなどは、犬がパニックになって飛びつかれた拍子に転んで怪我をしてしまった。など、愛犬の制止も効かないような状況になってしまうと、やはりリスクは高まります。恐怖の対象が分かっている時には、極力慣れさせる対策を取ることも必要でしょう。
特に、大型犬の場合は「飛びつく」とは違う方法でのSOS対処法を徹底する必要があります。ハウストレーニングを強化し、雷が鳴った際はすばやくクレートに避難させる、など、身の安全を保障するスペースや場所をつくってあげましょう。万が一の震災時にも大いに役立つはずです。
基本の「オスワリ」を徹底しよう
「飛びつく」という行動は、地面にお尻がついていればできませんよね。つまり、「オスワリ」が徹底できていれば、飛びつき癖を大抵回避することができます。
「オスワリ」は小さな頃から最初に教えることのできる姿勢です。簡単だからこそ、「オスワリ」は、いつでもどこでも、そして、どのような状況の時でも、できるようにしたい基本姿勢なのです。
考えてみると、ごはんの前に座る、ドアの前で座る、信号待ちで座る、など、「オスワリ」をするとよい場面は意外とたくさんあるものです。これが習慣になるだけでも、とてもお行儀のよい自慢の愛犬になれるのです。