愛犬の困った行動、これさえ無ければ…などと思うことは一つや二つあるものです。
でも、どんな行動にも理由があります。知らないうちにストレスを与えていたり、間違った対処法をしてより行動を強化してしまったりしている場合もあります。犬の行動を理解し、それぞれに合ったしつけ対策を取って、お互いが気持ちよく生活できるようにしていきましょう!
ここでは「咬む」という困りごとにしつけ対策を行動別に紹介します。
この記事を書いた人
カジ ノブエ
ドッグトレーニング・インストラクター/スウェーデン式ドッグマッサージ・セラピスト 犬の行動心理に基づく英国式ドッグトレーニングを日本に取り入れた第一人者、松本和幸氏に師事。英国ペットドッグトレーナーズ協会公認、リン・バーバー氏のディプロマ取得。
出張ドッグトレーニング「おりこうワンちゃん」 http://www.orikou-wanchan.com
当たり前だけど、犬は咬む動物です

「咬む」という行為は、とても本能的な行動です。時には自分たちより大きな獲物を狩る動物として進化してきた犬にとって、咬んだり、かじったりすることはとても自然なこと。
咬むことによって顎を鍛えたり、固いものを咬んで歯や歯茎の掃除をして健康に保ったりすることは、犬達が生きていく上で必要な行為としてごく当たり前に行われてきました。
そのことを理解した上で、人社会の中でどのように「咬まない」ルールを犬に教えしつけていくか、を考える必要があります。もちろん、人に対して攻撃的な犬の「咬みつき」は決して許されることではありませんし、家の中には噛んだりかじったりしては困るものがたくさん存在します。
人に対する咬みつきは、人と犬との信頼関係を構築することで解消できるものです。そして、成犬になった時のさまざまな行動に影響を及ぼすことでもあるため、子犬の頃から人の手に対して「咬む」行為をさせない習慣をつけるしつけがとても重要です。
母犬が授乳時に子犬に咬む力加減を教えるように、人も母犬同様に子犬に対して咬んで良いものといけないものの区別やルールを小さなうちからしつけ、教える必要があります。
そうした人との暮らしの中で必要なルールを教えると同時に、犬の本能的な欲求を満たしてあげることが、互いが快適に生活を共にする秘訣といえるでしょう。
犬にとって当たり前ともいえる本能的な「咬む」行動に伴う理由が何なのかを理解し、その原因を解消できるような工夫をしてあげることが大切です。
子犬時代の「甘咬み」

子犬育ての中でも大変な「甘咬み」。歯の生え変わりでムズムズする、ストレス、本能的な行動、遊び、序列を判断する試し噛みなど、甘噛みの理由はさまざまです。
子犬は何でも口の中に入れます。口に入れ、噛んでみたり、舐めてみたりしながら、それらが何かを探り、学習しているのです。こうした「甘咬み」する理由を理解した上で、それぞれの理由をクリアできるようなしつけ対策を取ることで、「甘咬み」をスムーズに卒業することができるでしょう。
ムズムズする、ストレス、本能的な行動からくる甘咬み対策
乳歯が生え変わる時期になると、子犬たちは本能的に「咬みたい」欲求にかられます。また、ケージに閉じ込められて遊びたい欲求が満たされなければストレスだって溜まります。
こうした理由から「咬む」行為そのものを取り上げてしまっては、根本的な理由の解消にはなりません。むしろ、「咬む」ことでその欲求を満たしてあげることが大切です。そのためにも、おおいに咬んでも良いおもちゃやガムなどを与えてあげましょう。
そして、家具や洋服、スリッパなど咬んでほしくないものは、対処療法で被害を回避します。
咬まれたくないものは片付ける、手の届かないところに置く、カバーをする、嫌な味のするスプレーをする、などあらゆる作戦をたてて子犬の甘噛みアタックから守り、かじらせないようにするしつけ対策を立てましょう。
遊びにさそう甘咬み対策

こうした行動は、一般的に人に対して表れます。子犬の心理としては、遊んでもらいたいという気持ちから、遊びに誘うつもりで軽く咬む、ということをしているのですが、それに対して人は「咬まれた!」ということで大騒ぎに。
子犬としては、咬む → 人が騒いで相手にしてくれる → 面白くなる、楽しくなる♪ → また咬む という楽しい遊びのサイクルに突入していき、次第にヒートアップしていく状況になっていきます。
このような心理を働かせないようにするためには、人はまず子犬を興奮させない、ヒートアップさせないことがこの場合のしつけのコツです。そのため、「驚いた声をあげない」「騒がない」「遊びの誘いにのらない」という、相手にしない態度を取ることが効果的です。
序列を判断する試し噛みとしての甘噛み対策

子犬の甘咬みの中でも、この甘咬みを許してしまうと後の人との信頼関係に影響してくることになるため、早いうちからのしつけ対策が必要です。
子犬が、この人は自分よりも上かな?どんな反応をするのかな?ということを試すような甘咬み行為をするよりも先に、「私はあなたを守る立場にいるよ」ということを子犬に分かるような行動で教えてあげる、しつけることで、自然と人や人の手を敬うことを覚えていきます。
信頼関係を深める、あおむけの姿勢
- 人が犬を膝の上に乗せてあおむけにさせます。ポイントは、おへそが天井を向くようにまっすぐあおむけにすること。
- その状態をキープしたまま、子犬の足、肉球、腹、耳、首や顔の周りなど、身体のさまざまなところを触ります。ゆっくりとやさしく声をかけながら行うとよいでしょう。
- 手で口をめくり、歯や歯茎にも触りましょう。(歯磨きのしつけ対策にもなりますね)
- 口元に手を近づけて、犬が歯を当てそうになったら「あ“!!」などと声をあげて否定的な合図を出します。これは、母犬が子犬の授乳時に力加減を誤った時に出すシグナルを真似て、子犬に「咬む」行為を制限することを伝えるしつけです。
- 最後は必ず「よし!」などと解除の号令を出してあげます。「イイコにしていてくれてありがとう!」という気持ちで、たくさんほめてあげることも忘れずに。
このしつけのポイントは、嫌がっても元の姿勢に戻ろうとしても、犬の思い通りにさせないこと。

毅然とした態度でしっかりと両足の付け根辺りをおさえ、あおむけの姿勢をキープしましょう。
あおむけにしたときに子犬が嫌がって逃れようとしたり、元の姿勢に戻ろうとしたりして暴れた時に、人がこれらの行動を許してしまうと、人よりも子犬の意思が優先されてしまうことになります。子犬は「暴れると言うことを聞いてくれる」と学んでしまうため、気をつけましょう。
お腹という弱い部分をさらけ出す居心地の悪い姿勢の中でも、飼い主のことを信頼できていれば安心して身を任せ、従うことができます。その状況の中で、歯を人の手に触れさせない、という経験は子犬に「人の手に自分の武器である歯を当てない」ことが人と暮らすルールの中でとても大切だということを教える、しつける意味でもあるのです。
子犬が飼い主を信頼している場合、このあおむけの姿勢をキープしていてもされるがままにしてリラックスしていることができるでしょう。
暴れることはなくても、足に力が入っていたり、なんとなく落ち着きの無さそうな様子でも、このあおむけの姿勢を習慣にしているうちに、次第にリラックスできるようになります。
もちろん、そのためには普段から愛犬とのコミュニケーションが活発で、子犬が飼い主さんを大好きであることをこのしつけの大前提としたいところですし、日ごろのスキンシップや愛情の伝え方もおおいに関係があると言えるでしょう。
身体が自然と反応してしまう本能的な「咬み」
現在は狩りや人の仕事の手助けをせずペットとして家族に愛されている犬たちでも、歴史をふりかえればワーキングドッグとして活躍していた犬たちは少なくありません。
例えば、ヨークシャー・テリア(ヨーキー)やジャック・ラッセル・テリアなどテリアと名が小型の犬種は、ネズミや小動物を捕まえたり、追い立てたりする仕事をしていました。
そのため、本能的に小さくてすばしこい動きをするものに本能的に反応してしまいます。

コーギーは放牧された牛のかかとなどを咬んで群をコントロールする牛追いの働きのために改良された犬種です。そのため、ついつい人の足を見ると反応してしまいます。
手をひらひらさせたり、ちょこまかと動き回ったりする小さな子どもの不規則な動きやサーッと走り去っていく自転車に反応して、飛びついたり咬みついたりしてしまうケースでは、犬たちにとってその行為が「悪いこと」だという認識は無いかもしれません。
その飛びついたり噛んだりする行動を「いけないこと」だと教える、しつけることはもちろん大切ですが、その大前提として、普段から人社会の中にはどんな人がいるのかを学ばせておくこと、子どもや自転車を見ても興奮させない、飼い主さんのサインですぐ座ることができるなどの練習、しつけも必要です。
所有欲からの「咬み」
ごはんやオモチャを取られまい、として犬が唸ったり、咬みついたり、という行動は「これは自分のもの!」という主張とともに、犬が自分の獲物を取られまいとする本能的な攻撃行動の表れです。
人と犬との信頼関係が構築されていれば、こうした行動はそれほど問題になりません。自己主張をする、ということは、犬が人よりも自分のほうが優位な立場にあることを誇示しているとも言えます。

こうした犬の意識は普段から軽減させるしつけをしておかなければ、自分の思い通りにしないと気が済まないワガママな犬に育ってしまいます。
所有欲の強いタイプの犬は、食事を手から与える、食事を食べている最中に追加する、など人の手が介入することに慣れさせておくしつけをしておくと良いでしょう。
咥えたオモチャを離さない、という行動も普段の遊びの中で咥えたものを離す練習、しつけをして学ばせることが大切です。
恐怖や防御からの「咬み」
犬にとって恐怖を感じることがあれば、自然と防衛本能が働きます。気の弱い犬でも、追いつめられると一転して反撃の姿勢に出ることもおかしくありません。
日常生活の中でこうした恐怖や自己防衛のために犬の「咬む」という行動が出てしまうケースの中で大切なのは、人との信頼関係をしっかりと再構築する、ということです。
もし過去に人の手によって叩かれるなどとても怖い思いをした犬がいたら、その犬は人の手を見ると「咬む」ようになるでしょう。
解決策として、その嫌なもの、怖いもののイメージを良い印象に変えていくしつけが必要です。短時間で解決するものではありません。
その犬のペースに合わせて焦らず、時間をかけて少しずつ犬の信頼を取り戻す必要があるでしょう。「この手は君にとって怖いものではない。君を守るもの、君においしいものを与える手だよ」という気持ちを伝え、犬がそれを受け入れるしつけができれば、こうした理由からの「咬みつき」は軽減していくでしょう。
ストレスからの「咬み」

犬も人と同様に、眠たい、食べたい、遊びたい、などさまざまな欲求もあります。
そしてそれが叶えられないとき、犬は強いストレスを感じて「咬む」という行動に表れることもあります。犬の欲求を満たすことができれば「咬む」行動は軽減されますが、忙しい現代社会の中で犬の欲求すべてを満たすような生活が困難な場合もあるでしょう。
しかし大切なことは、自分の愛犬がどんなことにストレスを感じているのか、を飼い主さんがきちんと気付いて理解してあげることです。
長い留守番や運動不足などからくるストレスの場合、自分の尻尾や毛を噛みちぎったり、足を舐めかじったりすることもあります。
また、家具を壊したり、飼い主さんが大切にしているもの、匂いのついているものなどを噛みちぎったりするケースもあります。
そんな時はつい声を荒げそうになりますがグッとこらえて怒らず、無言で片付けること。どうしてストレスや欲求不満がたまっているのか、を一度振り返ってみてください。
散歩にいけず十分な運動ができない場合は、転がすとおやつが出てくる知育トイなどを活用して頭を使わせたり、長時間噛んでいられるガムなどを与えたりして、十分に気分を紛らわせてあげましょう。
また、小さな子どもが苦手な犬などは、同居する子どもに追いかけまわされることに強いストレスや恐怖を感じて「咬む」こともあるでしょう。そんな時は、犬の逃げ場になるスペースを確保してあげたり、小さな子どもに犬との正しい接し方を教えてあげたりすることが大人の役割です。
人の手に守られている、という信頼を犬と築く

ペットとして飼われている犬は、人の手が無ければ生きていくことができません。
ごはんを与えてくれる手、散歩や遊びをしてくれる手、日常の健康を守るために手入れをしてくれる手、病気やケガの時に治療をしてくれる手…その手を怖いと思ったり、嫌いだと思ってしまったら、こんなに不幸なことはありません。
人の手はやさしく自分を守ってくれるものだと犬が信頼できるような、そんなしつけを小さな頃から行っていきましょう。