かつては外で飼われることが多かった日本の犬たちの住宅事情は大きく変わり、室内で人と一緒に暮らすことが当たり前になってきました。人の住まいである家が犬にとっても自分の家でもあるのです。
犬にとって「住み家」とは落ち着いて休む場所です。その分、たくさん外に出て元気いっぱい体を動かすこと。そうすれば、家の中ではとても落ち着いて過ごすことができます。家の外の世界を充実させることで、愛犬の毎日はとても豊かなものになるでしょう。
散歩はもちろん、ドッグランなどを活用して愛犬に犬同士のコミュニケーションの機会をつくってあげたいものですね。人も大好き、犬も大好き。
ここでは、フレンドリーな愛犬に育つためのヒントと、愛犬の一大イベント、ドッグランデビューの為のしつけを紹介します。
この記事を書いた人
カジ ノブエ
ドッグトレーニング・インストラクター/スウェーデン式ドッグマッサージ・セラピスト 犬の行動心理に基づく英国式ドッグトレーニングを日本に取り入れた第一人者、松本和幸氏に師事。英国ペットドッグトレーナーズ協会公認、リン・バーバー氏のディプロマ取得。
出張ドッグトレーニング「おりこうワンちゃん」 http://www.orikou-wanchan.com
まずは、愛犬のお散歩デビューを成功させよう
犬にとって初めての「家の外」体験は、なんといってもお散歩デビュー。
飼い主さんによって大切に守られている家の中と違い、家の外は犬にとって想像をはるかに超えた世界です。お散歩では老若男女のいろいろな人間はもちろん、トラックやバイク、自転車、そして大音響の電車など。空中には時折ヘリコプターも轟音を響かせて通ったりするものです。
お散歩で犬が歩く道も柔らかい土や草の上ばかりではありません。お散歩の途中にはアスファルトやマンホール、下が透けて見えるような格子状の側溝の蓋など、足ざわりの異なる地面がたくさん。草や土、他の犬の匂いなど、楽しそうな誘惑物ばかりではなく、犬にとって苦手なものもたくさん!それが、外の世界です。
どんな状況でも、飼い主の行動や合図に集中でき、落ち着いて対応できる犬にしつけるために、まずは外の世界に慣れる、という第一歩のしつけから始めましょう。
怖がって歩けないこともあるので、まずは家の周りを抱っこして見せたり、玄関先の数メートルくらいの短い距離から始めたり、愛犬に合ったペースで少しずつ世界を広げていくことがしつけのポイントです。
愛犬の歩みが止まってしまう時は、進む方向の延長上にしゃがんで名前を呼んであげましょう。ほめたり名前を呼びながら励ましてあげることで、自信を持って歩くことができるようになっていきます。
アスファルトの道路や交通量の多い一般道からスタートするのではなく、公園の芝生や土の地面など、犬が好きそうな場所から歩かせてみるとうまくいくこともありますよ。
首輪とリードを大好きになるしつけ
最初に犬に怖い思いや強い苦手意識を持つような経験をしてしまうと、首輪やリードをつけることを嫌がるようになってしまうことも少なくありません。
お散歩デビューの少し前から、家の中で首輪やリードにつながれることに慣れる練習、しつけを始めましょう。
最初は、5分くらいのしつけ時間でも十分です。首輪が気にならなくなるまで、着けたり外したりをくり返しながら、次第に首輪をしている時間を長くしていきます。
首輪をつけるときにおやつをあげたりして、首輪に良い印象を持たせるようなしつけをすると犬が首輪を受け入れやすくなるでしょう。リードに慣れさせるしつけも同様です。
嫌がって、首輪やリードを咬んでしまう場合は、やさしく止めさせ、オモチャなどで遊んだりしながら意識をそらすようにしつけてあげましよう。
飼い主さんがリードを持って愛犬を呼び、手元に呼び寄せておやつをあげるなど、リードをつけると楽しいことがある、と学ばせるしつけが大切です。
無理やり引っ張るなど、リードがどういうものか分からないうちに犬にとって嫌な経験をさせるしつけをしてしまうと、リードを見ただけで怖がるようになってしまいます。
金具が重かったり、飾りがついていて音がしたり、犬にとって違和感があるとそれだけでも抵抗する場合があるので、最初はシンプルで軽く、犬にあまり負担のかからないものを選んであげることも大切です。
リードを見ただけで嬉しくなってはしゃぐくらい、外に出ることが楽しいことだと理解できるようにしつけれると、愛犬とのおでかけの機会がますます豊かなものになっていきますよ。
他の犬に慣らすしつけ!
お散歩デビューを果たしたものの、通りすがる他の犬との接触に自信がなく、反対方向から犬連れの人が歩いてくることを発見すると、思わずお散歩の進路を変えてしまったという経験はありませんか?
お散歩で会う犬同士のあいさつの仕方や遊び方は残念ながら人が上手に教えてあげることはできません。
やはり、犬のことは犬に教えてもらうことが一番です。経験豊かな先輩犬に、さまざまなことを教えてもらうためにも、飼い主さんがためらわずに、まずはあいさつをさせてもらうところからチャレンジしてみましょう。
この時、リードが短すぎてしまうと愛犬は自分自身で体を自由に動かすことができず、不安や恐怖心をあおってしまい、威嚇や防御の行動をとるなど逆効果になってしまう場合があります。
突然とびついたり吠えかかったりしないように、いつでもリードをひけるような心構えをした上で、リードを短く持ち過ぎずに、ゆとりある長さをキープしてあげましょう。
いきなり正面からグイグイいくのではなく、横からゆっくりと近づくように愛犬をしつけ誘導してあげるなど飼い主さんもサポートしてあげましょう。
また、飼い主さん同士が笑顔であいさつをし、「練習中なので、あいさつさせてください」と一言添えて和やかな雰囲気をつくるようにしましょう。飼い主さん同士がリラックスしていることで、犬同士の緊張感もほぐれたりします。
お互いがお尻の匂いを嗅ぎ合ったり、尻尾を振りながら上手にあいさつできる場合もありますし、どちらかがマナー違反をして威嚇されたり、吠えかかってしまうような場合もあります。
どちらの場合でも、愛犬にとっては貴重な経験の一つです。上手にあいさつできたらほめてあげ、相手に怒られてしまったらやさしく励ましてあげるしつけをしましょう。
どうしたら仲良くできるのかは、こうした経験を重ねることで学んでゆくものです。愛犬を信じて、まずは他の犬との接触の機会を与えてあげることが、犬同士のコミュニケーションが上手になる第一歩といえるでしょう。
愛犬のドッグラン・デビューのためのしつけ
リードフリーで自由に駆け回る愛犬の姿は、犬本来の魅力にあふれ、その笑顔は本当に愛おしいもの。ドッグランを上手に活用して、日ごろの運動不足なども解消させてあげましょう。
ドッグランでの他の犬とのコミュニケーションは、家庭の日常にはない刺激や犬としての満ち足りた充実感を与えてくれるでしょう。
人家族の中に犬一頭だけで暮らしている愛犬に仲良しの友達ができれば、愛犬のQOL(クオリティ・オブ・ライフ=生活の質)も豊かになります。
一方で、マナーが悪かったり犬同士のコミュニケーションが下手だったりすると、せっかくのドッグランのはずが、気付くと周りから犬も人もいなくなっていた…などと残念なことにもなりかねません。
犬自身のマナーのしつけはもちろんですが、飼い主としてのマナーや節度ある常識を守り、愛犬家同士が快く過ごせるような配慮も大切にしたいですね。
ドッグラン・デビューの前にマスターしておきたい「おいで」のしつけ
帰る時やヒートアップしそうな気配を察知してケンカを避けたい時などに、愛犬に「おいで!」の合図を出して、スムーズに自分の元へと呼びよせることができるように普段からしつけておきましょう。
普段の散歩と違い、リードにつながれていない自由度の高い条件の中で、愛犬がしっかりと自分の発信する合図に従ってくれるかどうかは、愛犬との信頼関係の深さも影響してきます。
日ごろから練習、しつけを積み重ね、愛犬が意識せずとも体が反応してしまうようにしっかりとしつけておきましょう。
- 「おいで」のしつけをするときは犬の行動範囲を制限するため、リードをした状態で行うとよいでしょう
- できるだけ離れたところで名前を呼び、目があったら「おいで」と合図を出します。最初のうちは、ごほうびを持っていることを犬に見せ、「おいで」の合図によって自分の元に来たら、ごほうびをあげる方法でしつけをしましょう。楽しそうに呼ぶこともこのしつけのポイントです。
はじめは、犬と目線が同じくらいの高さになるように座った状態で呼んであげましょう。
手を広げるなど、目標物を大きくしてあげると犬は来やすくなります。慣れてきたら、椅子などに座った状態や立った状態など、目線を高くしてしつけていきます。 - 「おいで」の声に反応せず、自分の元に来ない場合は、「おいで」と声をかけながらゆっくりとリードを手繰り寄せて、自分の元に呼び寄せましょう。
この合図を聞いたら、例外なく飼い主の元に行かなくてはならないことをしっかりしつけましょう。そのため「おいで」の合図に従わない、ということ経験を極力させないようにしましょう。
普段の生活の中でも、楽しそうに名前を呼んで自分の元に来たらたくさんほめる、というしつけを繰り返していると、犬も自然と「おいで」の号令が大好きになっていきます。習慣になるとよいですね!
ドッグラン・デビューの前にマスターしておきたい「マテ」のしつけ
もちろん、「オスワリ」「フセ」「おいで」「マテ」といった、基本的な号令をしっかりしつけ、愛犬が身に付けていることが、ドッグランなどの公共の場で楽しくのびのびと過ごすことができる第一前提ではありますが、その中でも「マテ」は、どんな状況の時でもしっかり愛犬が身に付けているように練習、しつけておきたい号令のひとつです。
特にリードの付け外しやランの出入り口を通る時などは、しっかりと「マテ」の合図が聞けるようにしつけておきましょう。他の犬とのトラブルになりそうな気配の時も、遠くからでも「マテ」の合図が愛犬に届けば、万が一のトラブルを回避できることもあります。
- マテの練習は、最初はほんの数秒から始めます。最初から長時間動かずにいることは犬にとって大変難しいことです。失敗を繰り返すよりも、短い時間でもよいので成功させてほめてあげることをたくさん経験させるしつけをし、愛犬が自信をもってその行動をとれるように練習することがこのしつけのコツです。
- オスワリをさせ、「マテ」と言いながら手のひらで犬の目線を遮るようなハンドサインを出します。
- 犬がじっと動かずに待つことができたら、「よし!」と解除の合図を出してからほめてあげましょう。「マテ」をしっかりと強い意思を持って言い、解除の合図を楽しそうにやさしく言うことで、「よし!」と言われるまでの間しっかりと待てるようになっていきます。
- 動かないで待つことができるようになったら、今度は飼い主さんが愛犬から遠ざかっていく練習をしましょう。「オスワリ」をさせたら一歩分愛犬から遠ざかり、数秒待って元の位置に戻って「よし!」と解除の合図を出してあげます。待てるようになったら、次第に距離と時間を伸ばしてしつけをしていきます。
大好きな人が自分から離れていく、という愛犬にとっては不安を感じて動いてしまいやすい状況の中でも待っていられる、という練習、しつけを繰り返すことで、しっかりと待てるようになっていきます。
ドッグラン デビュー前に知っておきたい飼い主さんマナー
ドッグランは公共施設です。飼い主さんも施設ごとのルールを守り、誰もが気持ちよく利用できるように、節度ある行動を心掛けましょう。
- ワクチン接種の証明書など提出物はきちんと出しましょう。
- ランに入る前にトイレを済ませておくようにしましょう。
- 大型・中型犬用エリア、小型犬エリアなどランのスペースが分かれているときは、たとえ自分の愛犬がどんな相手の犬とも仲良くできるとしても、愛犬の大きさにそったエリアを利用しましょう。
- ランエリアに入ったらいきなりフリーにせず、愛犬はもちろん、周囲の犬が慣れるまでは、リードをつけたまま様子をみましょう。
- 飼い主さん同士の話に夢中になりすぎず、愛犬から目を離さないようにしましょう。少しでも、ヒートアップしそうだな、疲れてきているな、と感じたら早めに愛犬を呼び戻して休憩させる、または引き上げるようにしましょう。
- 排泄物の処理は飼い主さんが責任を持って行いましょう。そのためのビニール袋などのマナーグッズの携帯も忘れずに。
- こまめに水分補給をしてあげましょう。
- エリア内でむやみにおやつを与えないようにしましょう。
- オモチャなどの持ち込みは、思わぬトラブルに発展することもあるため控えるようにしましょう。
- ヒート中や皮膚のトラブル、体調が思わしくない時の利用は避けましょう。
愛犬の個性に合ったしつけを
ドッグランで愛犬が遊ぶ姿をみていると、このコ、こんな一面があるんだな、と意外に思うこともあるでしょう。犬は犬と一緒に遊ぶことが至上の幸せ、とは限りません。
他の犬と遊ぶよりも飼い主さんの傍らで昼寝をする方が幸せな犬もいます。
ドッグランで上手に遊べないからといって失格ではないし、飼い主さんのしつけが間違っていたとも一概には言えません。
大切なことは、愛犬がどんな時に喜びを感じたり、楽しそうにしているのか、をきちんと理解できること。あらゆる経験の機会を奪わず、広い世の中を教えてあげることが飼い主の務めと言えます。
もしドッグラン・デビューがうまくいかなくてもがっがりせずに、どんな外の世界が愛犬にとっての楽しみなのか探してあげながら愛犬に合ったしつけをしていきましょう。